伝記ステーション   Art Bird Books

あの「夢」はどこからやって来たのだろう?

家具の破片やすら絵画にくわえたアントニ・タピエス


中目黒界隈を散歩していると取り壊し中の建物のかつての壁がそのまま剥き出しになっていて、それがまた時おりぐっとくる光景になっていることがある。当店の店内解体の一日一枚写真の中継をしたのも、解体されていき形を無くし「無」になっていく感じに波長が合う時があって、最後の18年前の壁がでてきた時は(赤や黄色で壁を一部塗っていたのをすっかり忘れていた)、ぞぞっとした。ああ、ちょっとこの辺はタピエスかな、とおもって思わず写真も撮ってしまっていた(本物のタピエスはそうじゃないけど)。タピエスはミロ以降最大のスペイン・カタロニアのアーティストで、私が物心ついた頃から、すでに世界のアートの巨人となっていて何がそうなのか当時はよく分からなかった。実際、実家の古い家の壁の節穴の空き具合の方がカッコいいとおもったりした(そういうのも実際のタピエスはそうじゃない)。パウル・クレーやミロに当初影響を受けシュールレアリスムでスタートをきって、アンフォルメル絵画(不定形)、抽象表現主義へ突き進み、油絵具にボロ布家具の破片や土や砂、大理石の粉などを混ぜ「アルテ・ポーヴェラ」の潮流をリード。その勢いで1953年からミクスト・メディアでクリエーションしはじめ、その影響が世界中に広まり、20世紀を代表するアーチストの名となっていった。若い人たちは無意識のうちのこのミクスト・メディアを用いてたりするが、無論タピエスだけに限らないが、そのムーブメントは半世紀続いてきたことをおもえばやはり凄い影響力があったとおもうばかり。