ヴァルター・ベンヤミンの「新しき天使」-パウル・クレー
『複製技術時代の芸術』や「パサージュ論」などで知られるヴァルター・ベンヤミンが、いつも思索の導きとして身近に置き、自分自身に重ねていたのが、このパウル・クレーの「新しき天使」(版画)でした。20代後半に依然モラトリアムを続け(すでに結婚していたのだが)、あれこれ研究していたベンヤミンに、妻の両親からも業を煮やされ、そんなに本が好きなら本屋か出版者になったらどうかと言われた頃に購入したもの。なんとか経済力と独立を達成しようと、文学批評の雑誌の出版を計画するが当時の悪化する経済状況で頓挫。次いで、古書店を開こうとしたけれどもこちらもうまくいかず。ベンヤミンは書籍収集家でもあって、生活費をまかなうために本を売ったり、時に転売してしのぎをけずっていた時があったようです。
パウル・クレーの「新しき天使」にあてた、ベンヤミンの言葉。
「...風の勢いが強いので、かれはもう翼を閉じることができない。強風は天使を、かれが背を向けている未来の方へ、いやおうなしに運んでいく。その一方でかれの眼前の瓦礫の山は、天に届くばかりに高くなっていく。われわれが進歩と呼ぶものは、この強風なのだ」