伝記ステーション   Art Bird Books

あの「夢」はどこからやって来たのだろう?

(1):旧ユーゴスラビア、ボスニア出身のクロアチア人とは、オシム氏のサッカー人生においてどんな意味、背景となっているのか? 大学での専攻は「数学」と「物理」。大学創立以来の「数学」の最優秀生徒だった。強靭な肉体と芸術的感性をもった父の遺伝子


掲載のYoutube2分後に現役時代のイビチャ・オシムの写真がでてきます
イビチャ・オシムの真実


「そもそも監督と呼ばれることが嫌いだ。私の国では監督をトレーナーというが、もともとの意味は調教師だ.....だが、私は調教師ではない。あえていうならば『教師』だと思う。調教師と教師とのちがいは、一方的に強制しているか、それとも教育しているかにある。もし強制する場合にしても、理由と効果を説明することが大切だと考えている」イビチャ・オシム
イビチャ・オシムは、あえていうならば自分は『教師』だといっています。遡ること40年以上前、21歳だった青年オシムはある電気工学専門学校に通う3年生の女子生徒を教えていました。何を教えていたかといえば、「数学」でした。なんとオシム青年は、通っていたユーゴスラビアの大学で、オシム青年はその大学の歴史上、数学の最優秀生だったといいうのです(専攻は「物理」と「数学」)! 家庭教師をやっていたというのも、分かりやすく上手に説明できる能力も備わっていたからだったようです(優秀でもそうできない人は大勢いる)。上手だったのは数学の教え方だけでなく、その18歳の女性(後のアシマ・オシム夫人)と瞬く間にできてしまい、3年後に結婚してしまいます。とにかく女性に惚れられてしまうスマートなハンサムボーイだったのです(『イビチャ・オシムの真実』エンターブレイン社)
そんなオシム青年はどんな環境に生まれたかといえば、まず旧ユーゴスラビアユーゴスラビアとは南スラブ人の土地という意味。ユーゴスラビア王国となった1929年前は、セルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国という国名で、それもわずか11年間でしか持続していなかった)出身です。詳細にいえばボスニア出身のクロアチア人です。無論、今はユーゴスラビアという国は分裂しその名称は消滅しています。ユーゴスラビアは、2003年にまずセルビア・モンテネグロという連合国家となり、その後クロアチアセルビアボスニア・ヘルツェゴビナスロベニアモンテネグロマケドニアの6つの共和国が独立をはたしています。2008年には、セルビアからコソボが独立を宣言しています。日本でイメージすれば、北海道、東北、関東、東海、関西、四国…が、独立し、さらに関西から大阪が独立していった様な感じでしょうか。
イビチャ・オシムがまだ若い頃、まだユーゴスラビアという国であった時代、5つの民族が、6つの共和国に住み、4つの言語が話され、3つの宗教が入り交じっていたといいます。その意味では、「マルチ・カルチュラル」な土地柄で、実際オシム少年が通った学校の隣にはイスラム教のモスクとカトリック礼拝堂が踵(きびす)を接っし、近くにはセルビア(東方)正教もあったといいます。
オシム家の家系も、そうした国状を反映しています。大規模な醸造所を営んでいた父方の祖父はオーストリア(現・スロベニア出身。祖母はドイツ・ミュンヘン出身。母方の祖母はチェコ人で、母方の祖父はポーランド人でした。そしてオシム家では会話はドイツ語で、オシム氏自身、髪が金髪だったこともあり子供時代は「シュワーポ(ドイツ人)」と呼ばれ、今も昔のまま奥さんや親友にそう呼ばれているようです。
サッカー選手時代には、スポーツ・ジャーナリストたちから「シュトラウス」というニックネームがつけられていました(作曲家ヨハン・シュトラウスにちなむ)。強靭な身体からつむぎだされるドリブルは、優雅にして軽快なワツルのようにリズミックだったからです。肩幅の広い大男にして骨太な体格は父ミハイリ・オシムのDNAそのものでした。「シュトラウス」と呼ばれる程の芸術的感性は、ならば母からとおもいきや、なんとそれも父ミハイリから継がれたものだったようです。
父ミハイリ・オシムは鉄道車輛製造工場に勤めていました。周囲からはサラエボいちの力持ち、と言われるほどの強靭な身体をもち、脱線したワゴン車をひとりで動かせたという伝説の持ち主だったといいます(重量上げとボディビルディングをしていた)。そんな怪力が、サラエボでは「アコーディオン弾き」としてもよく知られた存在だったというのです。ロマンチストで心が繊細な芸術家肌だったと。では母からはどんな”DNA”を受け継いだのか、それは(2)でご紹介致します。その”DNA”がないと、オシム氏がその精神において、オシム氏ではなくなってしまうほどのものなのです。(2)へつづく

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