伝記ステーション   Art Bird Books

あの「夢」はどこからやって来たのだろう?

映画『ビューティフル・マインド』の主人公・天才数学者ジョン・ナッシュ伝(その1)

今回は、映画『ビューティフル・マインド』でラッセル・クロウが演じた天才数学者ジョン・ナッシュをとりあげます。伝記映画が話題作になることは洋画ではよくあります。欧米ではいわゆる「伝記映画ーBiography Movie」が本当に多く製作されます。脚本の元になる原作がそもそも多く出版され、出版界でも「伝記」「自伝」本は、歴史文化の一部分を占めるものとして高く評価されていることが大きいでしょう。本映画の原書「Beatiful Mind : Genius, Madness, Reawakening The Life of John Nash」(シルヴィア・ナサー著 1998年;日本語版 新潮社 2002年)も、ピュリッツァ賞「伝記部門」最終候補になり、全米批評家協会「伝記部門」大賞を受賞しています。
著者シルヴィア・ナサー(ニューヨーク大学経済学部を卒業している才女)は、「ニューヨーク・タイムズ」の経済記者だった当時、ノーベル経済学賞(数学ではなかった)を受賞したジョン・ナッシュに取材をしたのが契機となって4年間かけて本書を書き上げたといいます。さすがにぐいぐい引き込まれる内容と構成の本になっていて、映画『ビューティフル・マインド』をご覧になって、数学者ジョン・ナッシュのことをもう少し突っ込んで知ってみたい方には、ぜひともお薦めいたします。
ジョン・ナッシュが取り組んでいた「ゲーム理論」(名前はよく聞くものの私も実際によく知らないですが)、しかも「非協力ゲーム理論」となるともうほとんどわかりません。が、なんと興味深いことに、映画でも女性(陣)に対しどのように男性(陣)がアプローチを仕掛ければ最も効果的なのか(男性陣に敗者をつくらない方法など)、自らも含めた思考や、ファーブルの様に動物を観察しそのいっけんカオス的な動きからセオリーを生み出していっており、さらには人間関係が不得手な自分が「非協力」的に相手に対した時にどのような状況が生まれるのか、といったなんとも生ま生しい部分も含んでいるのです。すでにフォン・ノイマンが発見していたゲーム理論が、原爆を所有することによる戦争抑止力や恐怖の均衡の問題などに適応されていましたがナッシュの新理論がそこに加わったとのことです。様々なプレイヤーがかかわる「非協力ゲーム理論」では、最低一つの<均衡点>をもつと証明しています。ナッシュの日々におけるその<均衡点>こそが<自分自身>でなくてはならなかったようです。ところが映画で描かれた様に、当時のソビエトが米国に仕掛ける侵略作戦の暗号を解くために利用されたりと、<均衡点>は崩れ統合失調症が深まっていってしまうのです。
ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡
ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡

さて、そんな天才数学者ジョン・ナッシュはどのような成長過程をたどって数学的天才になったのでしょう。小学校4年生の時は、音楽と、なんと「算数」がBマイナスの成績でしたが、その成績「算数Bマイナス」の裏に、少年ナッシュの「マインド・ツリー(心の樹)」の核になるものが存在していたのです。それはナッシュ少年のある”性根”、気質でした。また12歳の時、エジソンの様に、自分の部屋を「実験室」に仕立て上げます(エジソンはナッシュより3歳早い9歳の時に、地下の物置部屋を「化学実験室」に仕立てあげていた)。その「実験室」とは、「数学」とはまったくかかわりのないものだったのです。なんの「実験室」だったのでしょう。「算数Bマイナス」の裏にあった”性根”とあわせて近日、(その2)としてアップ致します。